ウイルス対策の換気

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「ウイルスを換気で屋外に出す」は正しい

ウイルス対策の換気

2020年の新型コロナウイルス流行後、ありとあらゆる場所で換気が推奨されるようになりました。バス・電車・タクシーといった交通機関、カフェや居酒屋といった飲食店、学校やオフィスなど、「多くの人が集う場所」「密閉されがちな空間」はいずれも常時、または定期的な換気が必須となっています。

「これまでインフルエンザやノロウイルスなどが流行っていたが、特に換気しなかったな。コロナは特殊なのかな」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そうではありません。新型コロナウイルスも、他のウイルスも、うっかり体内に入れてしまわないために「屋外に排出する」のは非常に効果的な対策なのです。

新型コロナウイルス以前に、これだけ大規模な換気が行われなかった理由は、他のウイルスが新型コロナウイルスほどの脅威ではなかったためです。新型コロナウイルス登場以前に、現在と同じような換気が積極的に行われていたら、おそらくインフルエンザもノロウイルスも大きく減っていたと推察されます。

実際、2019-20年度と、2020-21年度のインフルエンザ罹患者数(1月中旬の1週間)で比較してみましょう。2019年-20年度は64,553人のところ、2020-21年わずか73人と、1/1000近くまで減少しています。もちろん、マスクの着用・飲食の自粛・アルコール消毒・テレワークなども大きな理由ですが、大規模な換気の実施もこの一因と考えられます。

出典: 厚生労働省 インフルエンザの発生状況

よって、新型コロナウイルスの流行が終焉した後も、換気やマスク着用といった衛生管理を多く取り入れ続けるのは、インフルエンザやノロウイルスなどの感染を防ぐ上で、大変有効です。

なお、「屋外に排出されたウイルスは危険ではないか」とお考えになる方もいるかと思いますが、屋内に比べて屋外は圧倒的に広く、空気量が多いため、排出されたウイルスはあっという間に拡散していき、人の体に取り込まれるリスクは非常に低くなります。排出されたウイルスは大気中では長時間生存できないので、屋外にウイルスが蓄積され「屋外のウイルス濃度が上がる」ようなこともありません。

ウイルスは非常に微細で、舞い上がり排出しやすい

2006年12月に、東京都のホテルでノロウイルス感染による集団胃腸炎が発生しました。この事件の感染ルートは特徴的なものでした。

発端は、ノロウイルスに感染した来訪客がホテルじゅうたんに嘔吐したことから始まります。このじゅうたんを、ホテルスタッフが一般的な洗剤で洗ってしまったところ、ノロウイルスが殺菌されず残存しました。その後、洗浄済じゅうたんの上を人が歩いたところ、歩くたびにじゅうたんに付着したノロウイルスが舞い上がり、それを吸い込んだ宿泊客・訪問客に感染が広がったのです。

出典: 国立感染症研究所 感染症情報センター 「Mホテルにおけるノロウイルスによる集団胃腸炎の発生について

なぜ舞い上がったのか。それは、ウイルスは非常に微細であるためです。

  • スギ花粉: 直径30-40マイクロメートル
  • PM 2.5: 直径2.5マイクロメートル
  • 大腸菌: 直径2マイクロメートル
  • インフルエンザウイルス: 0.1マイクロメートル (100ナノメートル)


ここではインフルエンザウイルスを例に上げましたが、スギ花粉と比べると1/200程度、大腸菌と比べても1/20程度の直径しか無いため、質量が非常に小さく、ちょっとした空気の流れの変化で舞い上がってしまいます。

「ウイルスは軽くて簡単に舞い上がる」のはデメリットだけではありません。舞い上がって吸い込んでしまう危険がある一方、屋内から屋外への空気の流れを作ることができれば、その空気の流れに乗って排出が進むこともまた事実です。

つまり、換気でウイルスを排出することは、室内からウイルスを減らすために非常に効果的な方法なのです。

ウイルス換気(排出)方法

では、ウイルスを排出する方法としてどのような物があるか、改めて確認していきましょう。

24時間換気(換気設備)

24時間換気の趣旨は、2時間程度で空気が入れ替わることを目的として、屋内の静穏や快適さを損なわない程度に換気を行うことです。つまり、24時間換気をONにしたとたんに、大きなファンの音がして、強い風の流れが室内に作られる、急激な温度変化が起こるのでは失格です。

別な言い方をすると、24時間換気は快適さを損なわないがゆえに、瞬間的な換気力は弱いといえます。例えば、窓を開けて強制的に風を取り込むのと比べると、24時間換気は時間をかけてゆっくりと換気を行います。どちらがよい悪いではなく、目的が違うのです。

24時間換気は、屋内換気における「基本」であるため、ウイルスを排出するためには常に稼働させておく必要があります。ただ、一時的に強力な換気を行いたいときは、別な方法も併用すべきです。

窓開け

一時的に大きく室温や湿度が変化し、屋外から粉塵や花粉が飛んでくるリスクもある。しかし、一時的な換気力は非常に強い。これが窓開け換気の特徴です。

強力な換気方法ですが、窓を開けている間は暖房も冷房も効率が著しく下がるため、長時間行うべき方法ではありません。一般的には、「ストーブをつけたときの換気」であっても、「ウイルス対策の換気」であっても、1時間あたり5-10分程度が目安とされます。

ただ、寒冷地での温度変化などを考えると、窓開けの時間中、常に窓を全開にするのは、室温が下がりすぎるため現実的ではない場合があります。この場合は、状況に応じて「何センチ窓を開けるか」「どこの窓を開けるか」「暖房はつけておくか」などを考慮した上で換気を実施すべきです。当サイトのこちらの記事が参考となります。

参考: 換気を行う基準・目安を知る

扇風機・サーキュレーター

扇風機やサーキュレーターは、風を送り、空気を撹拌するための機械で、それ自体では換気は行なえません。しかし、換気において大きな役割を果たします。

換気を行う上で、空気の通り道という考えは非常に重要です。つまり、給気口から入ってきた空気が、屋内の空気をウイルスとともに外に送り出す(排出する)のが換気ですが、押し出された空気の行き先がない場合、空気がぐるぐる回るだけで屋外に効率的に出ていかないためです。また、場所による換気のムラも生じてしまいます。

窓が一つしかないなど、換気を行いにくい環境では、窓開けや24時間換気に加えて、扇風機やサキュレーターを併用すると、「換気されにくい場所」の空気を送り出す、中から外へ空気が排出される流れを作ることができます。自然換気、または換気装置での24時間換気に制約がある場合は特に効果的です。

エアコン

エアコンには大きく分けて2種類あります。1つは「換気機能つきエアコン」で、もう1つは「換気機能なしエアコン」です。一般的なエアコンは後者で、換気機能はありません。

換気機能があるエアコンは、冷暖房を行いながら換気を行うため、24時間換気のように自然と換気を行えます。もちろん、換気によりウイルスを屋外に出してくれます。

換気機能がない一般的なエアコンは、屋内の空気を温めたり冷やしたりはしますが、換気は行えません。よって、ウイルスを屋外に出すことはできません。しかし、こうしたエアコンにも役割があります。

多くのエアコンには送風機能があります。冷房も暖房も行わず、風だけを送る機能です。微細なウイルスは、エアコンの送風機能でも簡単に舞い上がりますので、扇風機やサーキュレーターのように、屋内の空気を撹拌して、ウイルスを効率よく屋外に出す補助をします。