この記事に書いてあること
この記事は、換気とその目的について、広く理解を持ちたい個人、または法人の施設管理責任者を対象に執筆されています。
窓を開ける、24時間換気を作動させる、換気扇をつけるなど、換気を行う方法は複数ありますが、全ての換気は「5つの目的」に集約されます。
以下で、各項目について解説いたします。
換気を行う目的の中で、最も一般的かつ重要な目的は、「室内の空気環境を悪化させる物質や、ダニや粉塵といったアレルゲンを屋外に出すこと」です。換気を行うことで、屋内の空気環境を安全・快適に保つことができるため、非常に重要な活動です。
はじめに、換気によって追い出すべき物質やアレルゲンとは何でしょうか。以下で簡単に解説します。
カテゴリ | 物質名 | 何によって増加するか |
---|---|---|
二酸化炭素 (CO2) | 二酸化炭素 (CO2) | 人の呼吸 |
一酸化炭素 (CO) | 一酸化炭素 (CO) | 燃焼(ストーブ、ファンヒーターなど) |
窒素酸化物 (NOx) | 一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、三酸化窒素(NO3)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)など | 燃焼(ストーブ、ファンヒーターなど) |
揮発性有機化合物 (VOC) を含む、シックハウス症候群物質 | ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホス、テトラデカン、フタル酸ジブチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、ダイアジノン、フェノブカルブ | 建材などに含まれ徐々に放出される場合がある |
アレルゲン | ほこり、食べ物くず、衣類繊維くず、ダニやその死骸、土の粉塵、ペットの毛、花粉など | 生活する上で発生、掃除を怠ると堆積 |
表にある5カテゴリの物質が、換気で対策すべきものです。特に「二酸化炭素」と「アレルゲン」は時期を問わず発生するものなので、四季やウイルスの流行などとは関係なく対策が必要です。
人の呼吸は吸う息と吐く息で、その成分が異なります。具体的には、吸う息は「酸素が多く、二酸化炭素が少ない」ですが、吐く息は「二酸化炭素が多く、酸素が少ない」です。よって屋内において、「換気が十分でない」「人の密度が多い」という条件を満たすと、屋内の二酸化炭素濃度は徐々に上昇していきます。
二酸化炭素濃度が上がっても、すぐに身体の安全に問題が生じることはありません。しかし、次第に呼吸が早くなるなど、不快な状態となります。また、二酸化炭素濃度が上がると思考力に悪影響を及ぼすという複数の研究が発表されていることから、効率よく業務や学習を行うため、換気で二酸化炭素濃度を下げるのが望ましいです。
二酸化炭素濃度を下げるための換気は、屋内の24時間換気を利用しても次第に行われます。しかし、濃度が一時的に急上昇した場合などは、24時間換気を待たずに窓開けで濃度を下げるべきでしょう。必要な時間は5分から10分程度です。
石油などの燃焼によって生じる有害物質が一酸化炭素と窒素酸化物です。一般的な家庭やオフィスであれば、濃度が上がっても生命への影響はまずない二酸化炭素と比べ、これらの物質(特に一酸化炭素)は、少量でも生命の危険がある物質です。
これらの物質は燃焼によって発生します。このため、冬の暖房のために、屋内排気のストーブやファンヒーターを換気せずにつけっぱなしにするのが最も危険です。
濃度を下げる方法は、燃焼器具を使っている間は「1時間に5-10分程度の窓開けを行う」ことです。
住宅の建材を製造する過程で利用される物質が、建築済の住宅の中で拡散されることで、めまい、頭痛、のどの痛みなどを引き起こすのがシックハウス症候群です。シックハウス症候群を引き起こす物質として厚生労働省により濃度測定値が取り決められているのが以下の物質です。
2003年の建築基準法の改正により、VOCの使用量が事実上制限されるなど、シックハウス症候群対策が広く行われているため、1990年代と比べるとシックハウス症候群の深刻さは減ったと言えます。しかし、VOCなどの物質に過敏に反応して症状を出してしまう人は一定数います。特に住居を新築・新築マンションに入居した方々などに、シックハウス症候群の症状が出やすい傾向があります。
VOCなどの物質は建材に染み込んでいる場合が多いため、換気を行うことでシックハウス症候群を根本的に解決することはできません。しかし、窓開け換気をすることでVOCなどの物質の屋内濃度を下げることが出来ます。
前提として、新築の住宅やマンションであれば、24時間換気が備わっているので、24時間換気を常に行いましょう。そのうえで、特に刺激を感じる時間帯や季節などがある場合には、窓開け換気(1時間あたり5-10分程度)を行うのもよいでしょう。
24時間換気を行っているが、窓開けが難しい状況(夏や冬、また外からの花粉や粉塵の流入)だと、シックハウス症候群の症状は強くなることがあります。こうした場合の対策としては、換気扇や排気ファンをつけること、また、「換気機能付きエアコン」の導入を検討してもよいかもしれません。
アレルギーの血液検査を行ったことがある方の中には、「アレルゲンといってもこんなに多くの種類があるのか」と驚かれた方も少なくないでしょう。例えば、花粉を例にとっても、複数の種類の花粉似アレルギー反応を示すかどうか、数値で結果が出されます。
さて、一般的にアレルゲンというと、「ほこり、食べ物くず、衣類繊維くず、ダニやその死骸、土の粉塵、ペットの毛、花粉」などを指します。他の物質とアレルゲンの大きな違いは「目で見えるほどの大きさ」であることです。例えばほこりやペットの毛ははっきりと目視できますし、花粉もある程度溜まっている場所であれば目で見てわかります。
このため、「アレルゲンが床や棚などに付着してきたら、拭き掃除をする」ことで、アレルゲンを大きく減らすことができます。また、市販の空気清浄機は「風で屋内の空気を舞い上がらせ、これを内部のフィルターで吸着させることで、アレルゲンを減らす」働きをします。空気清浄機はアレルゲンを減らすことに強い効果を発揮します。
屋内の24時間換気も同様に効果がありますし、窓開け換気も強力です。しかし、花粉が多く飛び交っている時期に窓開け換気を行うと、大量の花粉が屋内に流入するため逆効果となります。窓開けを行う際は、「自分と同居家族は、どの時期の花粉に反応するか」をあらかじめ調べた上で、該当する花粉が飛び交っている時期以外に行いましょう。
換気は「強いニオイを含む空気を屋外に出し、新鮮な空気を屋内に入れる」ことで、屋内のニオイを減らすことも得意です。
まず、調理関係のニオイですが、基本的には24時間換気とコンロ上の換気扇の両方で行います。特に換気扇はガスとニオイの排出に特化しているため、短時間で強力な排気を行えます。
体臭・汗・加齢臭・介護臭は、どれも人体のニオイです。24時間換気を基本としつつ、必要に応じて窓開けを行うのが効果的です。窓開けを行えないような環境でニオイが取れない場合は、追加で排気ファンを取り付ける、空気清浄機や脱臭機を併用するのがよいでしょう。
家でたばこを吸う場合に、最も強力にニオイを外に出せるのは「コンロ下などの排気ファンの近くで吸うこと」です。排気ファンの吸引力は非常に強いため、たばこのニオイが室外に広がるのを防いでくれます。また、ファンがない環境であれば、たばこ専用の空気清浄機を使う方法もあります。
カビ臭がよく発生するのは、浴室や水回り(特に梅雨の時期)です。排気を正しく行っても、カビ自体がなくなるわけではないので、まずはカビをこそぎ落とすための清掃が必要です。その上で、24時間換気と天井ファンを使って換気を行うのがよいでしょう。これでも足りない場合は、除湿機を併用して湿度を下げることで、カビを発生しにくくするものよいでしょう。
最後に、小さなお子様の世話や高齢者の介護を行う家庭で使用済おむつの処理が必要になった時の場合です。便のニオイは非常に強いため、「使用済おむつは防臭袋に入れてしっかり口を締め、ふたで密閉できるゴミ箱に入れる」ことを前提とし、その上で24時間換気を用います。ゴミ箱を開け閉めした直後にニオイが拡散するのは防ぎようがありませんが、開け閉め時以外のニオイはほぼなくなるはずです。
湿度対策における換気は、「屋内の湿度の高い空気を外に出し、屋外の湿度の低い空気を入れる」が基本となります。春・秋・冬であれば、屋外の空気のほうが屋内の空気より湿度が低いため、「24時間換気」「換気扇を利用した屋内空気の排出」により、室内の湿度を下げられます。
問題は梅雨の季節や夏です。屋内の湿度よりも、屋外の湿度が高いことが多いため、給気を行っても湿度対策となりません(むしろさらに湿度が上がる場合もあります)。このため、給排気を同時に行う換気装置による湿度対策はあまり立たないと考えたほうが良いでしょう。
とはいえ、換気のための設備が全く使えないわけではありません。「外の空気を取り入れる」ことは役立ちませんが、「湿気を多く含む空気を、換気扇や排気ファンで外に出す」ことは有効です。このため、「特に湿度が高い部屋に関しては、排気ファンをつけっぱなしにしておく」「除湿機を使う」「洗った洗濯物をそのまま干さずに、衣類乾燥機にかける」などが効果的でしょう。
新型コロナウイルスの流行で、「ウイルス対策には換気が有効」と言われるようになりましたが、新型コロナウイルスに限らず、あらゆる細菌・ウイルス対策として窓開けは有効です。
細菌もウイルスも軽いため、風などが吹くと簡単に空気中を舞い上がります。舞い上がった細菌やウイルスが体内に入ると、病気を引き起こします。しかし、風で細菌やウイルスを舞い上がらせて、外に出してしまえば、屋内は安全になります。
家屋で稼働する24時間換気を利用すれば、一般的には2時間程度で屋内の空気が入れ替わります。また、追加で窓開けを行うとさらに早く空気が入れ替わります。インフルエンザやノロウイルスなど、特に多くのウイルスが流行する冬は、こうした換気が有効です。
なお、細菌・ウイルス対策において窓開けが有効でないケースとしては、既に高いレベルの衛生管理が行われていて、窓を開ける悪影響のほうが大きい場合です。「食品工場」を例に取ると、窓開けを行うことで細菌やウイルスを屋外に出すことが出来ますが、その反面、別な細菌や粉塵などが入ってくるリスクがあります。こうした状況では、窓開けを行うべきではありません。
春や秋などの温暖な季節に、屋内の室温を調整するために、窓を開けて空気を入れ替えるのは効果的な方法です。春や秋であれば、外気温は20度程度であるため、窓を開けても室温が急激に上がる(下がる)ことはありません。
気温調節の上で問題となるのは、夏と冬です。どちらも窓を開けると室温が急激に上がってしまう(下がってしまう)ため、冷暖房効率が悪化します。冷暖房効率が悪化すると、電気料金に影響するため、夏と冬の窓開け換気による室温調整は最小限にすべきでしょう。
温度を調整したい場合は、エアコンやストーブなどの冷暖房機器の利用を中心とし、どうしても窓開け換気を行いたい場合は、最短の時間で完了させるべきでしょう。
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