この記事に書いてあること
「家やオフィスの換気をどの程度行えばよいか」を調べた際に、「1時間あたり5-10分程度」という目安が表示された、という方は多いと思います。では、なぜ換気時間は「1時間あたり5-10分程度」とされているのでしょうか。この目安は本当に正しいのでしょうか。
以下では、一般的な環境での換気で、最も広く使われている目安である「二酸化炭素濃度(CO2濃度)」をキーワードに、換気のタイミングについてご紹介します。
そもそも換気の目的は、「空気を入れ替えることで、有害物質やアレルゲンを外に出す(または濃度を下げる)ことで、安全・快適な室内環境を整える」ことです。有害物質やアレルゲンには、以下のようなものがあります。
カテゴリ | 物質名 |
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二酸化炭素 (CO2) | 二酸化炭素 (CO2) |
一酸化炭素 (CO) | 一酸化炭素 (CO) |
窒素酸化物 (NOx) | 一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、三酸化窒素(NO3)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)など |
揮発性有機化合物 (VOC) を含む、シックハウス症候群物質 | ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン、パラジクロロベンゼン、クロルピリホス、テトラデカン、フタル酸ジブチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、ダイアジノン、フェノブカルブ |
アレルゲン | ほこり、食べ物くず、衣類繊維くず、ダニやその死骸、土の粉塵、ペットの毛、花粉など |
細菌・ウイルス | 新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスなど |
次に、「換気によって屋外に出せる物質はこれだけあるにも関わらず、なぜ二酸化炭素濃度が統一的に用いられている」のでしょうか。
その大きな理由は、「人がいれば必ず発生する物質」は二酸化炭素のみであるためです。他の物質は人がいるだけでは発生しません。
上記表に記載されている一酸化炭素は、「低濃度であっても死亡リスクがある極めて危険な物質」ですが、屋内でストーブやファンヒーターをつけて「燃焼時に発生する物質が屋内に放出」されない限り、発生することはありません(窒素酸化物も同様です)。
シックハウス症候群を引き起こす物質の多くは、家で用いられている建材に含まれている場合が多いです。しかし、シックハウス症候群を防ぐための建築基準法の段階的な改正により、対象物質の使用または使用量が制限が加えられています。また対象物質があったとしても、シックハウス症候群の症状を出さない人も多いです。つまり、シックハウス症候群は「多くの場所ではそもそも発生していない」「発症したとしても、症状を出さない人が多くいる」ため、広く使われる基準にはできません。
アレルゲンも同様です。特定の物質、または複数の物質に対して強いアレルギーを発症する人もいますが、何も発症しない人も多いです。また、花粉などのように「特定の季節のみ強く発生するが、それ以外の季節ではほぼ発生しない」ものや、ほこりのように「密閉環境ではほぼ発生しない」「きちんと掃除すれば、除去できる」ものもあります。よって、統一的な指標としては使いにくい物となります。
最後に細菌・ウイルスですが、これは一部の機関でしか測定ができないため指標にすることができません。特にウイルスの測定は、大学などの研究機関や、分析を専門的に行っている機関でしか対応できません。
こうした事情により、二酸化炭素(二酸化炭素濃度)が換気の基準として用いられています。
次に、二酸化炭素濃度の基準について解説します。
2020年11月に、西村康稔経済再生担当大臣が「二酸化炭素測定器」を持って、リアルタイムで二酸化炭素濃度を示しながら行った会見を覚えている方も多いと思います。
日本では、厚生労働省と文部科学省がそれぞれ、二酸化炭素濃度の基準を制定、公表しています。
制定組織 | 基準 | |
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建築物環境衛生管理基準 | 厚生労働省 | 0.1% (1000ppm) 以下 |
学校環境衛生基準 | 文部科学省 | 0.15% (1500ppm) 以下 |
家庭やオフィスなどの一般的な環境で用いられているのは「建築物感児湯衛生管理基準」に記載されている「0.1% (1000ppm) 以下」という指標です。西村大臣が言及していたのも「1000ppm」でしたので、学校以外では、この数値を基準とすべきです。
では、この「1000ppm」という基準は、どれくらい危険な目安なのでしょうか。
吸気中のCO2濃度 | 症状 |
---|---|
1% (10,000ppm) | 呼吸数と1回換気量の増加 |
2% (20.000ppm) | 数時間の吸入で症状に変化なし |
3% (30,000ppm) | 危険な影響はない、呼吸の深さが増す |
4% (40,000ppm) | 粘膜に刺激、頭部圧迫感、血圧上昇、耳鳴り |
6% (60,000ppm) | 呼吸数が著明に増加、皮膚血管の拡張、悪心 |
8% (80,000ppm) | 精神活動の乱れ、呼吸困難が著明 |
10% (100,000ppm) | 意識喪失、呼吸困難 |
20% (200,000ppm) | 中枢の麻痺、死亡 |
出典: 科学技術振興機構
上記表では、二酸化炭素濃度が10000ppmの状態で「呼吸数と1回換気量の増加」があると記載されています。そして、明確な身体症状が出るのが40000ppmの「粘膜に刺激、頭部圧迫感、血圧上昇、耳鳴り」です。
二酸化炭素濃度の基準となっている1000ppmは、「特段の症状はないが、呼吸数と呼吸ごとの換気量が増える」10000ppmの1/10の量です。つまり、1000ppmを若干上回ったところで、身体には何の症状も現れませんし、安全が損なわれることもありません。
実際、筆者はオイルヒーターをつけたまま睡眠したら、朝の二酸化炭素濃度は1600ppmになっていた経験がありますが、身体に不調はありませんでした。
前項では、二酸化炭素濃度が1000ppmを少し超えたくらいでは、身体の安全に影響はないという解説をいたしました。次に、アメリカの「ローレンス・バークレー国立研究所」が行った「二酸化炭素濃度の思考力への影響」に関する調査について解説します。
この調査では、二酸化炭素濃度をそれぞれ「600ppm」「1000ppm」「2500ppm」の3パターンで分けた環境を作り、被験者が「意思決定パフォーマンス測定テスト」を実施、人間の思考を9項目に分けて測定するという手法を用いました。
結果、二酸化炭素濃度が上昇すると、多くの項目で測定値の低下が見られ、特に「イニシアティブの獲得」「戦略的思考」の2つの項目では、2500ppmで行ったテストでは「機能不全」と判断されるほどの大きな低下がありました。
出典: アメリカ ローレンス・バークレー国立研究所
調査項目 |
二酸化炭素濃度600ppmでの 被験者スコア平均 |
二酸化炭素濃度1000ppmでの 被験者スコア平均 |
二酸化炭素濃度2500ppmでの 被験者スコア平均 |
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イニシアティブの獲得 | 75%-95%レンジ | 50%-75%レンジ | 0%-25%レンジ |
戦略的思考 | 50%-75%レンジ | 50%-75%レンジ | 0%-25%レンジ |
*上記表は、出典URLをもとに当サイトで作成
ちなみに、人が多い環境、例えば教室やセミナールーム、会議室などでは「二酸化炭素濃度2500ppm」は簡単に超えてしまう数値です。身体は安全であっても、知らず知らずに思考力が低下していた事態を避けるためには、1000ppm以下を保つ努力が必要です。
家やオフィスなどの空間における、正しい二酸化炭素濃度を知るためには「二酸化炭素濃度測定器(二酸化炭素濃度モニター)」を利用しましょう。以下では、二酸化炭素濃度測定器について解説します。
二酸化炭素濃度測定器とは、その名の通り、空間における二酸化炭素濃度を測定・表示するための機械です。多くの製品では、あらかじめ定められた二酸化炭素濃度を超過すると、「アラーム音を出す」「光って知らせる」ことで警告を出す仕組みがついています。
二酸化炭素濃度測定器で警告が出たら、「窓開け換気を行う」「換気扇や排気ファンをつける」「24時間換気装置を調整し、給気量・排気量をあげる」といった対策を行い、二酸化炭素濃度を1000ppm以下に下げます。これにより、安全性を確保し、思考力低下を防げます。
インターネットを検索すると、多くの二酸化炭素濃度測定器が表示されます。価格も3,000円程度から、数十万円するものまで幅広いです。以下では、二酸化炭素濃度測定器を選ぶ基準をお伝えします。
はじめに注意すべき点は、製品について正しい知識ならび技術力を持っている企業から購入すべきという点です。
「製品を売っているのだから、製品について知っていて当然ではないか」と思われるかもしれませんが、実態はそうではありません。製品について理解のない企業が、製品を輸入し、そのまま売っている例は多いのです(多数の出品者がいる大手通販サイトは、ほとんどが「深い理解のない企業による出品」です)。
深い理解のない企業から製品を購入した場合、販売企業は製品について深い理解がないため、サポートを求めても正しい回答ができません。薄利多売の企業であれば、「お客様が不具合というのであれば、新品と交換します」といって、新品に交換される場合もありますが、「そもそも何が問題か」の原因究明が行えていないので、同じ不具合が繰り返される例もあります。
二酸化炭素濃度に限らず、測定器利用において回避しなければならないのは「測定値が正しくない(誤った測定値が表示される)」ことです。
本当は1000ppmに到達していないのに警告が出る場合は、行う必要のない換気がされるため、工数が無駄になります。逆に、1000ppmを大幅に超過しないと警告が出ない場合は、基準を超えても警告が出ないため、安全性に問題があること、また思考力の低下を引き起こします。
二酸化炭素濃度の正確な測定には次の2点が重要となります。
換気を目的とした二酸化炭素濃度の測定の場合、光学式 (NDIR方式) が最も適しています。
電気化学式・半導体式といったその他の方式のセンサーは測定対象濃度や次に説明する測定手順の難しさの点で、換気の目安を知るための使用にはおすすめできません。
測定前に「暖機運転」の指示や表示がされる測定器を選んでください。ちなみに測定器における暖機運転とは、「測定本番開始前に、空間の状態を測定・把握するためのウォームアップ運転」を行うことを指します。
どのようなセンサーでも、正確な測定を行うためには定められた測定手順を適切に守る必要があります。二酸化炭素センサー等のガスセンサーは、測定開始前に一定時間の暖機運転が必要なものがほとんです。
暖機運転がそもそも不要な製品は、測定開始前に測定する空間の状態を把握せずに測定開始するため、不正確な数値が表示される場合が多いのが実情です。
また、決められた測定手順を守らずに測定された数値は信頼性の低いものとなります。例えば、暖機運転が完了していないのに測定を開始すると、正確な数値は測定できません。また、測定器を暖機運転・測定開始した空間から別の空間に移す等、測定器の電源を一度落としたときは改めて暖機運転を行わないと、こちらも不正確な値が表示される原因となるため、注意が必要です。
そもそも動作しない製品、故障する製品を出荷しないのが、メーカーとしての品質保証力です。製品の品質について理解したい場合は、メーカーに対して「品質管理のためにどのような検査を行っているか」を確認すれば、一発でわかります。
この質問にすぐに回答出来ない企業の多くは、「製品を輸入しているだけで、品質管理については何も知らない企業」である可能性が高いです。こうした製品は「ひょっとしたら品質が高いかもしれないし、低いかもしれない」製品です。つまりは、良い製品に当たるか、故障した製品を引いてしまうかは、ほぼバクチのようなものです。
特に、企業や組織で導入し、お客様・従業員・上司などへの説明責任が発生する場合は、導入前に「検査プロセス」について、信頼できる回答を得られた企業の製品を注文すべきです。
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