この記事に書いてあること
二酸化炭素は地球の生態系に欠かせない物質ですが、人間にとっては「二酸化炭素濃度が上昇すること」はメリットよりもむしろデメリットが多いことで知られています。
参考記事
二酸化炭素濃度と眠気・睡眠
二酸化炭素濃度の上昇によるデメリットは、上記に加えて「集中力の低下」があることもご存じでしょうか。以下で解説します。
国内外の複数の研究により、室内の二酸化炭素濃度が上昇することで、人間の集中力が低下することが明らかにされています。
「空気調和・衛生工学会」で発表された日本の研究者による論文は、立命館大学の実験室において大学生5人(被験者)が、異なる二酸化炭素濃度の空気のもとで行った測定の結果がまとめられています。
本論文は、別記事「二酸化炭素濃度と眠気・睡眠」でもご紹介しましたが、今回は「集中力」に絞って別な観点から解説します。
出典
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2018.8/0/2018.8_169/_pdf/-char/ja
測定は、以下にある7つの状況下において「タイピング作業」を用いて行われました。
ケース | 二酸化炭素濃度 (ppm) | マスク着用 | 温度(摂氏) | 相対湿度(%) | |
---|---|---|---|---|---|
1 | 600 | なし | 25 | 50 | |
2 | 1500 | なし | 25 | 50 | |
3 | 3500 | なし | 25 | 50 | |
4 | 600 (マスク着用時5000ppm相当) | あり | 25 | 50 | |
5 | 600 | なし | 25 | 50 | |
6 | 600 → 1500 | なし | 25 | 50 | |
7 | 600 → 3500 | なし | 25 | 50 |
作業を行った大学生に「作業前」「作業後」で集中力について回答を求めたところ、最も集中力が低下したと回答したのは「ケース4(マスク着用、5000ppm相当)」でした。ケース4では、回答者平均で24%の集中力低下が明らかとなりました。
上記表にある通り、ケース4の場合は「室内の二酸化炭素濃度は600ppmと低いが、マスクを着用しているため、被験者が吸い込む二酸化炭素濃度は5000ppm程度となっていた」と考えられます。これは非常に高い濃度です。
次いで集中力が低かったと報告したのは、「ケース3(3500ppm)」です。回答者平均で7.7%の集中力低下が報告されています。
また、「ケース6(600ppm → 1500ppm)」と「ケース7(600ppm → 3500ppm)は、いずれも作業開始時から徐々に二酸化炭素濃度が上昇するという試験です。この試験では、ケース7で32%、ケース6で14%の集中力低下が報告されています。
なお「集中力が低下する」ことは、「作業のパフォーマンスが低下する」ことを意味します。ケース7では作業効率が20%低下、ケース6では9%低下が合わせて報告されています
こちらは、アメリカ・ハーバード大学公共衛生大学院の研究者により作成された論文です。
出典
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.1510037
この研究では、被験者は日によって二酸化炭素濃度が異なるオフィスで6日間過ごし、高次認知機能を評価するテストを行うことで、二酸化炭素濃度の変化がパフォーマンスにどのような影響を与えるかを測定しました。
テスト(測定項目)は、Day 5の結果を1.00として、そこからの差異を測定しています(数値が高いほどテスト結果が良好)。
結果は以下となります(「二酸化炭素濃度平均」の値はテストを行った2つの部屋の濃度の平均値です)。
なお、テストには「基本的活動レベル」「タスクオリエンテーション」「情報捜索」といった複雑性の低いテストと、「危機対応」「情報の使用」「戦略」といった複雑性の高いテストが含まれています。
Day 1 | Day 2 | Day 3 | Day 4 | Day 5 | Day 6 | |
---|---|---|---|---|---|---|
二酸化炭素濃度平均 (ppm) | 586 | 934 | 1410 | 743 | 945 | 487 |
[テスト] 基本的活動レベル | 1.35 | 1.20 | 0.91 | 1.14 | 1.00 | 1.37 |
[テスト] 応用活動レベル | 1.39 | 1.08 | 0.88 | 1.51 | 1.00 | 1.15 |
[テスト] 焦点を絞った活動レベル | 1.44 | 1.68 | 0.85 | 1.51 | 1.00 | 1.52 |
[テスト] タスクオリエンテーション | 1.14 | 1.05 | 1.00 | 1.03 | 1.00 | 1.15 |
[テスト] 危機対応 | 2.35 | 2.05 | 1.33 | 1.97 | 1.00 | 2.27 |
[テスト] 情報捜索 | 1.10 | 1.11 | 1.08 | 1.09 | 1.00 | 1.11 |
[テスト] 情報の使用 | 3.94 | 2.61 | 1.01 | 2.72 | 1.00 | 4.04 |
[テスト] アプローチの幅 | 1.43 | 1.29 | 0.98 | 1.21 | 1.00 | 1.50 |
[テスト] 戦略 | 3.77 | 3.17 | 0.83 | 2.83 | 1.00 | 3.98 |
[テスト] 全項目の平均 | 1.99 | 1.69 | 0.99 | 1.61 | 1.00 | 2.03 |
上記の結果を見て分かる通り、「危機対応」「情報の使用」「戦略」といった複雑性の高いテストであるほど、二酸化炭素濃度が高い日と低い日による結果の差が大きくなっています。逆に、「基本的活動レベル」「タスクオリエンテーション」「情報捜索」といった複雑性が低いテストでは、結果に大きな差はありません。
つまり二酸化炭素濃度による業務パフォーマンスの影響は、単純なタスク処理のような仕事よりも、高度な知的作業において顕著になるということです。
二酸化炭素濃度の上昇が集中力、特に高度で複雑な知的作業のパフォーマンスに悪影響を与えることが研究から明らかとなりました。
では、どうすればパフォーマンスの低下を防げるのか、2つのポイントを解説します。
オフィスや会議室などで二酸化炭素濃度の上昇を防ぐには、まずは「二酸化炭素濃度を測定する」ことから始める必要があります。現在の濃度を知る方法がなければ、濃度を下げる必要があるかどうかの判断も行えません。
二酸化炭素濃度を測定するためには、二酸化炭素濃度計(測定器)を利用する必要があります。なお、建築物環境衛生管理基準では望ましい二酸化炭素濃度は「1000ppm以下」と規定されています。
しかし、先にご紹介した研究結果では、1000ppmを下回る水準(700ppm程度)であっても、高度で複雑な知的作業のパフォーマンスが大幅に低下していることが判明しています。よって、パフォーマンスを高く維持するのに十分な二酸化炭素濃度である「400ppmから500ppm程度」を維持するようにするのが効果的でしょう。
なお、「二酸化炭素濃度計を導入する際に気をつけることはなにか」という記事で、濃度計導入における3つの注意点を解説しています。あわせてご覧ください。
室内の二酸化炭素濃度を下げる方法は換気です。
一般的なオフィスでは通常24時間換気が行われており、室内の空気は2時間程度で入れ替わるように換気設備が設置稼働しています。しかし、オフィス内にも換気が行われにくい場所があります。
例えば、空気の通り道から外れた場所や、会議室などです。こうした場合、「オフィスの執務スペースの大半は正しく換気されているが、一部箇所だけ二酸化炭素濃度が高止まりしている」ことがあります。
そもそもオフィスの中に「二酸化炭素濃度が上昇しやすい場所があるかどうかを知る」には、二酸化炭素濃度計で測定を行わねばなりません。定期的に測定を行い、濃度が上がりやすい場所が判明した場合、「空気の通り道を作る」「ドアや窓を開ける」といった工夫が必要です。
また、「空気はよく通るが、一時的に人口密度が高くなり二酸化炭素濃度が急上昇する」場合もあります。例えば「大会議室」「セミナールーム」といった、大人数を収容するスペースです。会議やセミナーの最中は、機械換気の強度を高くする、窓やドアを一部開けるといった工夫を行うことで、会議やセミナー実施中でも、室内の二酸化炭素濃度を下げられます。
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