この記事に書いてあること
温暖な地域を除き、冬は何らかの器具を使って暖房をつけている家庭は多いのではないでしょうか。しかし、暖房器具の中には換気しないと死の危険があるものがあります。実際、東京消防庁では2015年から2019年の5年間で、27件の事故が発生しています。
出典: 東京消防庁 住宅で起きる一酸化炭素中毒に注意!
以下では、「なぜ換気が必要か」「どの器具を利用しているときに、どの程度換気すればよいか」「換気時の寒さ対策」についてご説明します。
暖房器具は大きく分けて3つあります。
この中で、特にリスクが高いものは「燃焼式暖房器具(給排気筒・煙突なし)」で、他の2つはリスクが低いものとなります。
燃焼式暖房器具 (吸排気筒・煙突なし) が他のタイプの暖房器具よりリスクが高いのは、燃焼により生成される様々な有害物質がそのまま室内に放出されるからです。
ここでは、燃焼により生成される有害物質について解説します。
一酸化炭素は物質が不完全に燃焼する際に発生する物質で、以下で取り上げる物質の中で最も危険な物質です。
なぜ非常に危険か。その理由は非常に低い濃度であっても死亡につながるためです。
CO (ppm, %) | 呼吸時間および症状 |
---|---|
0.001% (10ppm) | 事務所衛生基準(オフィスでの基準。この濃度以下を保つ必要あり) |
0.02% (200ppm) | 2~3時間内に軽い頭痛 |
0.04% (400ppm) | 1~2時間で前頭痛、2.5~3.5時間で後頭痛 |
0.08% (800ppm) | 45分で頭痛、めまい、吐き気、2時間で失神 |
0.16% (1600ppm) | 20分で頭痛、めまい、吐き気、2時間で失神 |
0.32% (3200ppm) | 5~10分で頭痛、めまい、30分で致死 |
0.64% (6400ppm) | 1~2分で頭痛、めまい、10~15分で致死 |
1.28% (12800ppm) | 1~3分で死亡 |
出典: 日本ガス石油機器工業会 一酸化炭素(CO)中毒に注意!
出典: 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター
一酸化炭素がどれだけ危険かを知るために、一酸化炭素と名前がよく似た「二酸化炭素」と比べてみましょう。二酸化炭素の場合は、「建築物環境衛生管理基準」により、1000ppm以下の濃度を保つことが目標とされています。一酸化炭素の基準は10ppmで、二酸化炭素はその100倍の1000ppmであることから、一酸化炭素がいかに少量でも危険かがお分かり頂けるかと思います。
一酸化炭素が危険な理由は3つあります。
ヘモグロビンとは、血液に含まれる赤血球、その赤血球に含まれるタンパク質のことです。赤血球は酸素分子と結合して、肺で取り込んだ酸素を全身に送り出す役割を持っています。
一酸化炭素は、酸素の200-250倍もヘモグロビンと結合しやすい性質を持ちます。このため、体内にに一酸化炭素が取り込まれると、血液中のヘモグロビンは酸素と結合せずに一酸化炭素と結合して「カルボキシヘモグロビン」という「酸素と結合できない」物質を生成してしまいます。この結果、ヘモグロビンが正常に機能せず、体内に酸素が取り入れられなくなり、酸欠から死亡に至ります。
危険な物質であっても、ニオイによりその危険性に気づける場合があります。しかし、一酸化炭素は濃度が上がると頭痛や息苦しさなどを感じることはありますが、ニオイはありません。
このため、意識が低下している睡眠時に、一酸化炭素濃度が上がっていることに気づかずに死亡する事故が相次いでいます。
一酸化炭素濃度が徐々に上がっていく場合、少しずつ頭痛やめまいなどの身体症状が現れ始めます。一酸化炭素中毒の怖い点は、「あれ、おかしいな、風邪かな。様子を見よう」と思っているうちに、徐々に体が動かなくなり、昏睡状態に陥り、そのまま死亡してしまうところです。このため、特に一人暮らしの場合は危険です。
窒素酸化物は、一酸化炭素と同様に「物質の不完全燃焼」により発生する物質です。「窒素酸化物」という特定の物質があるわけではなく、一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化窒素、亜酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素などがあります。
なお、不完全燃焼から発生する窒素酸化物の大部分は「一酸化窒素」ですが、一酸化窒素は酸素に触れるとすぐに二酸化窒素に変化するため、本項では主に「二酸化窒素」についてご紹介します。
二酸化窒素ならびに窒素化合物が大きな注目を集めたのは、1999年から東京都が開始した「ディーゼル車NO作戦」です。ディーセル車が排出する窒素酸化物が大気汚染の原因になるとして、国の規制よりも強い規制を設け、規制をクリアしないと「東京都内の走行を禁止」するとしたものです。この政策は、国全体の政策にも大きく影響を与え、2005年ならび2015年にさらなる強化が行われています。
このように、燃焼式暖房器具だけでなく、ディーゼルエンジンの「燃焼」でも二酸化窒素は発生し、大気汚染の主な原因とされています。吸い込むと、呼吸器への影響があり、気管支炎や肺水腫などを発生させることで有名です。しかし、一酸化炭素のように「少量でも即座に死に至る」ほどの危険性はありません。環境省の環境基準では、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmの範囲内、もしくはそれ以下とされています。
人の吸う息の0.03%ならび、人の吐く息の3.84%は二酸化炭素です。人が食物を食べ、その食物を処理する過程で二酸化炭素が生成されますが、人体の活動には不要なものであるため、呼吸時に酸素を取り込む代わりに二酸化炭素が放出されます。
つまり、人体には常に一定量の二酸化炭素があることになり、「非常に危険な物質」というわけではありません。しかし、二酸化炭素濃度が上がると「息苦しさ」や「思考力の低下」が起こる場合があります。
なお、厚生労働省が定める建築物環境衛生管理基準によると、二酸化炭素濃度基準は1000ppm以下となっています。しかし、「暖房器具を数時間つけっぱなしにする」「その間、換気を行わない」「室内に多くの人がいる」といった状況が重なると、容易に1000ppmを突破します。このため、1000ppm以下を24時間キープし続けるのは難しいのが実情です。
出典: 厚生労働省 建築物環境衛生基準
二酸化炭素濃度が上がり続けると、10000ppmほどで「呼吸回数が増加する」といった症状が起こりますが、意識混濁まで到達するには10倍の100000ppmの濃度が必要となります。日常生活でどれだけ暖房器具を使っても、この濃度に到達することはありませんので、危険性は非常に低いといってよいでしょう。
シックハウス症候群を誘発する物質として規制対象になっている「ホルムアルデヒド」などの揮発性有機化合物 (VOC) ですが、石油ファンヒーターなどからも発生します。しかし、その発生量(空気に発散される量)は、建材や家具から発散される量と比べると非常に少ないため、大きな注意を払うほどではありません。
しかし、化学物質に対して非常に過敏な体質を持っている方には、石油ファンヒーター由来のVOCに反応する場合があります。いわゆる「化学物質過敏症(多種化学物質過敏症)」を疑われる方は注意が必要です。
「暖房を長時間つけたままにした結果、室温が上がりすぎてしまった」「暑すぎて気持ち悪い」といった場合に、室温を下げるために換気は効果的です。
建物備え付けの24時間換気をつけたままの状態で暖房を消すと、一般的には2時間程度で空気が入れ替わり、それに従い温度も低下します。しかし、窓を全開にするなどの強力な窓開けを行うと、一般的な家庭であれば数分で一気に温度を下げられます。
特に燃焼式暖房器具をつけている場合は、室内に「すす」のようなニオイを感じることがあります。これは、物質が完全に燃焼せず、不完全な燃焼をしたときに発生されるものです(なお、一酸化炭素や窒素酸化物も不完全燃焼により発生します)。また、燃焼式暖房器具のメンテナンスが十分でない場合や古い器具を使っている場合、通常より多いニオイを発生させる場合があります。
暖房器具利用時のニオイには換気が有効です。短時間の窓開け換気で、大部分のニオイはなくなります。また、器具自体に問題が発生している場合は、修理や部品交換を行わないと強いニオイが解消されないため、点検を行うことをおすすめします。また、あまりに古い器具を使っている場合は、器具自体の買い替えを行うほうがよいでしょう。
次に、給排気筒や煙突がないタイプの燃焼式暖房器具を利用する際の換気法についてお伝えします。結論からお伝えすると「24時間換気を行ったまま、1時間あたり5-10分程度の窓開け」が必要です。
2003年7月以後に着工した建築物は、「給気・排気の両方が機械換気」「排気のみ機械換気」「給気のみ機械換気」のいずれかの方法で24時間換気を導入する必要があります。一般的な家庭やマンションでは「給気・排気の両方」または「排気のみ」が自動で行われるようになっており、石油ストーブやファンヒーターをつけた際に生じる有害物質の排出に役立っています。
しかし、24時間換気だけでは、発生する一酸化炭素や窒素酸化物の増加ペースに追いつかず、これらの物質の屋内の濃度が徐々に上がっていってしまいます。このため、1時間に1度、5分から10分程度の窓開けを行い、有害物質を一気に屋外に出すことが必要です。
なお、「屋内の有害物質を含む空気を排出」することが目的なので、換気扇や天井ファンなどを併用しても問題ありません。ただ、燃焼式暖房器具から離れた場所にある換気扇や天井ファンだけを稼働させても、室内全体の一酸化炭素濃度・窒素酸化物濃度の低下は限定的なので、窓開けを常にセットにするのが確実です。
ちなみに、消防法によりすべての住宅やオフィスに、火災警報器の設置が義務付けられています。この警報機の中には「煙だけを感知するもの」と、「煙に加えて、一酸化炭素などの物質を検知するもの(不完全燃焼対応)」の製品があります。家の中で燃焼式暖房器具を使う場合は、一酸化炭素も検知できるものを導入するのが安心です。
次に、給排気筒や煙突がある燃焼式暖房器具、ならびエアコンや電気ファンヒーターなどの燃焼しない暖房器具を利用している場合です。
給排気筒や煙突がある場合、有害な物質な屋内に放出されず、屋外に出ていきますので、窓開けのような換気は必要ありません。しかし、全く注意しなくてもよいわけではありません。
給排気筒が雪で覆われてしまい、排気が正しく行われなくなる、また給排気筒が外れたり破損した結果、一酸化炭素中毒が起こったという事例があります。給排気筒が正しく取り付けられているか、雪で覆われていないかなど、定期的な確認・点検が必要です。
出典: 経済産業省 原子力安全・保安院 一酸化炭素中毒防止のために 中毒事故事例集
次に、エアコンや電気ファンヒーターなど「燃焼しない暖房器具」を利用している場合です。この場合はそもそも燃焼が発生しないので、一酸化炭素も窒素酸化物も発生しません。よって、給排気筒はありませんし、特段の排気も不要です。
エアコンや電気ファンヒーターを利用して暖房を行っている場合は、人が多く集まったときや、暖房器具をつけたまま寝た後の二酸化炭素濃度の上昇に注意をしていれば問題ありません。
例えば、夜に暖房をつけて寝て、翌朝起きたときには二酸化炭素濃度が基準の1000ppmを上回っていると想定されます。しかし、1000ppmを上回ったとしても身体に大きな影響がないこと、24時間換気により徐々に二酸化炭素濃度は下がっていきます。このため、「積極的に何度も窓開け換気を行う」必要はありません。
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