この記事に書いてあること
この記事は、「学校」において、児童生徒並び教職員の安全管理に携わる担当者向けに作成されています。ちなみにここでいう学校とは、以下を含みます。
学校における換気は、家庭やオフィスとは異なる要求があり、このため異なる基準を用いての管理が必要となります。以下では、換気の基準となる「学校環境衛生基準」について、二酸化炭素濃度の考え方について、具体的な方法、冬季の換気についてなど、わかりやすく解説します。
学校環境衛生基準とは、学校保健安全法に基づく基準です。全ての学校はこの基準を満たすべく、適切な環境衛生の維持管理を行う必要があります。
学校環境衛生基準で定められている項目は「換気及び保湿等」「採光及び照明」「騒音」の3つに別れます。換気については「換気及び保湿等」の項目に含まれます。具体的に見ていきましょう。
検査項目 | 基準 | 遵守の程度 |
---|---|---|
・換気(二酸化炭素) | 1500ppm 以下 | 推奨 |
・温度 | 17℃以上、28℃以下 | 推奨 |
・相対湿度 | 30%以上、80%以下 | 推奨 |
・浮遊粉じん | 0.10mg/m3 以下 | 必須 |
・気流 | 0.5m/秒以下 | 推奨 |
・一酸化炭素 | 10ppm 以下 | 必須 |
・二酸化窒素 | 0.06ppm 以下 | 推奨 |
・揮発性有機化合物 | ||
(1)ホルムアルデヒド | 100μg/m3 以下 | 必須 |
(2)トルエン | 260μg/m3 以下 | 必須 |
(3)キシレン | 870μg/m3 以下 | 必須 |
(4)パラジクロロベンゼン | 240μg/m3 以下 | 必須 |
(5)エチルベンゼン | 3800μg/m3 以下 | 必須 |
(6)スチレン | 220μg/m3 以下 | 必須 |
・ダニまたはアレルゲン | 100 匹/m2 以下又はこれと同等のアレルゲン量以下 | 必須 |
検査項目は合計で14項目あります。この中で、日常の空気環境づくりにおいて特に重要となるのが「二酸化炭素濃度」「温度」「相対湿度」です。これらの数値は変動しやすく、かつ測定しやすい項目といえます。他の項目については、それぞれ特殊な測定器が必要となるため、学校側で定期的に測定するのは一般的ではありません。
次に、「遵守の程度」について見てみましょう。学校環境衛生基準では、基準それぞれの項目について「(基準数値)以下であることが望ましい」と書かれている場合と、「(基準数値)以下であること」と書かれている場合の2通りがあります。
「(基準数値)以下であることが望ましい」の場合は、「その基準値を一時的に超えることがあるかもしれないが、できるだけ超えないように管理すべき」という意味です。
例えば、学校の父母参観を想定してみましょう。通常40人の生徒がいる教室に、親が1人来る場合、人数が倍の80人となります。40人想定で管理されている教室に、倍の人数が数十分滞在すると、二酸化炭素濃度は基準となる1500ppmを超過する可能性が高いです。
しかし、この濃度超過は一時的であり、父母参観が終われば濃度は低下します。また、二酸化炭素濃度が仮に基準値の倍である3000ppmに到達したとしても、人間の安全に大きな問題は生じません。よって、事実上の「推奨値」として扱われていると考えられます。
逆に、「(基準数値)以下であること」と書かれている場合は、「常にこの数値を下回るべき」という意味と考えてよいでしょう。例えば、一酸化炭素濃度は人間の健康・生命に直接的な影響を与えます(低濃度でも死亡する場合があります)。また、ホルムアルデヒドなどの物質は、建材に含まれる事が多いため、「今日は人が多いから検出量が多く、明日は人が少ないから検出量が少ない」といった変動がありません。
つまり、「人体への影響の程度」が大きいもの、「数値の変動」が起こりにくいものは、「基準値を常に下回る必要がある」、必達値として記載されていると考えられます。
では次の章では、換気の目安となる二酸化炭素濃度について見ていきましょう。
はじめに、「なぜ二酸化炭素濃度が、換気の必要性の基準となっているのか」について理解しましょう。
人は、息を吸って、肺で酸素を取り入れて、二酸化炭素を排出することで活動しています。
吸う息 | 吐く息 |
---|---|
酸素が20.94% | 酸素が16.44% |
二酸化炭素が0.03% (300ppm) | 二酸化炭素が3.84% (38,400ppm) |
他は窒素など | 他は窒素など |
出典: 東京工科大学工学部応用化学科
つまり、息を吸って吐く際に「酸素が3.5%体内に取り込まれる」「二酸化炭素が3.81%放出される」が繰り返されます。呼吸が繰り返されると、空気中の酸素が徐々に減り、二酸化炭素が徐々に増加します。なお、二酸化炭素濃度が10000ppmを超えるあたりから、呼吸が早くなるといった症状が現れます。こうした状況を防ぐため、二酸化炭素濃度を換気の基準として測定されます。
なお学校では、外気の取り入れ(吸気)ならび、屋内の空気の排出(排気)を換気装置を使って自動で行っています。このため、ドアと窓を閉め切った教室に40人の生徒がいても、新鮮な外気が常に供給されますので、酸素濃度の低下ならび、二酸化炭素濃度の上昇はほぼ起こりません。
しかし、以下のようなケースを想定し、二酸化炭素濃度には常に注意を払う必要があります。
学校を建設する際、「どの空間には何人くらいの生徒・教職員がいるか」をもとに、「どの程度の換気設備が必要か」の計算が行われます。この計算に基づき、必要十分な換気量が確保できる換気が機械的に行われます。
つまり、換気施設が正しく維持管理・メンテナンスされ、かつ当初の想定収容人数での運営がされていれば、換気設備の稼働のみで二酸化炭素濃度を低く保てます。よって、学校の換気における前提は、「換気装置により正しく換気が行われている」です。
逆に頻繁に窓開けをすると、室温の予期しない変動(急上昇、または急低下)が発生したり、外気から「虫」「粉塵」「花粉」などが入ってくるため、不必要な窓開けは逆効果です。
しかし、以下のような場合は換気装置以外の追加の換気(一般的には窓開け)が必要です。
換気装置が正しく動いている場合は、一時的に上昇した二酸化炭素などの物質濃度を下げるための換気となるため、「休み時間の間だけ窓を開けておく」程度の対策で十分です。なお、窓開けを行うことで、屋内の温度や湿度が変動する場合があるため、「できるだけ長い時間窓を開けたほうが良い」わけではありません。
しかし、こうした「換気の常識」は、新型コロナウイルスの登場により大きく変化しました。
2020年に文部科学省が、新型コロナウイルス対策として作成したマニュアル「学校の新しい生活様式」内の「換気の徹底」には、以下の記載があります。
・出典: 学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル ~「学校の新しい生活様式」~ (2020.12.3 Ver.5)
上記の対策は、新型コロナウイルスが沈静化するまで確実な実施が必要です(沈静化後は不要となるでしょう)。
新型コロナウイルス対策として、冬季も通常より多くの換気が必要とされていますが、寒さが厳しい北海道では、冷気が屋内に入り込むことによる教育環境の悪化が懸念されます。
北海道が設立した研究機関である「北海道立総合研究機構」では、北海道の冬季の寒さに配慮した学校での換気方法についてパンフレットを作成し提案、このパンフレットを北海道教育委員会がすべての学校に配布しています。
具体的には、教室内に換気扇がある場合は「換気扇で常時排気+空き教室を利用し外気を温めて給気」、教室に換気扇がない場合は「(窓の)開け幅を適切に調整しながら常時2方向の窓を開け、寒くなりにくい工夫をする」といった内容で、現実に即した内容となっています。
出典: 「北海道の冬季の寒さに配慮した学校の換気方法」の提案について
なお、これらの換気方法自体は全く新しいものではなく、以前から寒冷地で用いられてきた方法です。新型コロナウイルスが収束したとしても、特に換気が必要な状況においては引き続き有用です。
ここまで、学校における換気の基本、ならび、新型コロナウイルス対策としての換気強化についてお伝えしてきました。最後に、正しく換気を行うには、正しい測定が必要、という点についてご紹介します。
二酸化炭素濃度計などの測定機器は、多くのメーカーから幅広い価格帯の製品が販売されています。しかし、残念ながら「測定が正しく行えない製品(表示されている数値が不正確である)」製品も少なくありません。
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