この記事に書いてあること
この記事は、店舗を経営されているオーナー様、店長様ならび、クリニックを経営されている院長先生が、「お客様と従業員の安全を守り、快適な店内環境を作るための換気」を行うための情報をまとめております。
2020年の新型コロナ禍により、店舗やクリニックでは「どのような換気を行っているかをお客様に積極的に伝え、理解してもらう」ことが大切になりました。もちろん、換気はウイルス対策だけでなく、温度調整、二酸化炭素やアレルゲンの濃度低減などに有効な、効果ある取り組みです。まずは、換気はどのように行われているか、換気によるメリット・デメリットを理解したうえで、店内環境の改善に役立ていただければ幸いです。
2003年の建築基準法改正により、店舗やクリニックでは換気設備を導入した機械換気(店舗全体の換気)の実施が義務付けられました。具体的には、「外気の取り入れ(給気)」と「屋内空気の排出(排気)」の両方を機械的に行うものです。
機械換気が正しく稼働していれば、二酸化炭素やホルムアルデヒドなどの排出・濃度低減、ならびに酸素を多く含む外気の取り入れが機能します。よって、店舗・クリニックの空気環境は正常に保たれ、追加で窓開けを行う必要はほぼありません。店舗・クリニックにおける換気の「基本中の基本」は、すでに導入されている機械換気が正しく稼働することです。
なお、ビルのフロアを全て使う店舗であれば、換気を含む空調は自店で管理しますが、ショッピングモールや駅ナカ施設になると、換気と空調は全て施設側で管理するのが一般的で、自店で管理する必要はありません。
屋内の空気環境に異変を感じたとき、はじめに行うべきは「さらなる換気の実施」ではなく、「換気設備が正しく動作しているかどうかの確認」です。換気設備のメンテナンスが正しく行われていない、またメンテナンス頻度が低い場合、給排気が正しく行われない場合があるためです。
店舗・クリニックの空気環境は、機械換気のおかげでおおむね良好に保たれています。しかし、時間帯によって、または季節によって一時的に快適でなくなる場面があります。その理由として、「混雑」「温度」「ほこり・花粉・虫」があげられます。
人は呼吸するたびに、空気中の酸素を肺に取り入れ、体内の二酸化炭素を吐き出すという動作を繰り返しています。このため、「吐く息」は「吸う息」に比べて「酸素含有量が4.50%少なく、二酸化炭素含有量は3.81%多い」という調査があります。
出典: 東京工科大学工学部応用化学科
屋内にいる人数がさほど多くなければ、換気設備による給気が正しく機能し、酸素濃度が高い外気が継続的に取り込まれます。このため、二酸化炭素濃度が問題になることはありません。
しかし、デパートの「初売りバーゲンセール」のような混雑が起こった場合、またはクリニックの待合室に座れないくらいの患者さんが来た場合、外気の給気が間に合わず、二酸化炭素濃度が急上昇する場合があります。この場合、お客様や従業員が「息苦しい」「気分が悪い」といった症状が起こります。
なお、店舗・クリニックでいくら混雑が発生したからといっても、屋内の二酸化炭素濃度が人が死亡するレベルに上昇することはまずありません。二酸化炭素中毒による死亡例は、設備の誤作動や、工場設備の不適切な取り扱いが主な原因です。しかし、店舗の安全管理上、店内混雑時の二酸化炭素濃度の上昇には常に注意を払っておくべきです。
換気が悪い密閉空間に近い店舗・クリニックでは、夏と冬には温度調整が難しくなるという問題があります。
店舗・クリニックのレイアウトや構造上、風が通りにくい場合や、ほぼ密閉空間になってしまっている場合、換気装置による換気だけでは十分ではないため、「開店前」「お客様が少ない時間帯」などに窓開け換気を行う場合があります(なお、こうした空間を「換気の悪い密閉空間」といいます)。
この方法自体は問題がありませんが、問題は夏や冬に換気を行うことで室温が大きく変化してしまうことです。換気を行うことで、二酸化炭素濃度を下げる効果がある反面、ビル管理法で定められた基準、すなわち夏であれば「温度28度、相対湿度70%以下」、冬であれば「温度18度、相対湿度40%以上」を保てなくなる場合があります。
厚生労働省は、夏と冬の換気をどう行うべきか対処すべきかの実用的なガイドラインを出しています。以下、要点を抜粋します。
出典:
厚生労働省 熱中症予防に留意した「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法
厚生労働省 冬場における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法
店舗・クリニックの換気装置を利用している場合、外からの給気はフィルターを通過して取り込まれるため、異物やほこりなどが入ることはありません。しかし、換気装置の性能が十分でない場合や、風が通りにくい構造の場合、窓開け換気が併用されます。
窓開け換気では、フィルターを通過せずに給気されるため、外からほこり、花粉、虫などが入ってくるという問題が起こります。食品を販売する店舗であれば異物混入は店の評判を大きく傷つけますし、お客様が長時間滞在する店舗で大量の花粉が入り込むようだと快適性が損なわれます。クリニックも同様で、窓開けはリスクが高い換気方法となります。
窓あけを利用しにくい店舗・クリニックにおける対策としては、「換気装置を増強する」のが最も確実です。しかし、物件によっては換気設備に手を入れられない、または換気設備増強のコストが高いという問題があります。
換気装置に手を入れられない場合の、次善の策として「局所的な換気装置を導入する」「フィルター付きファンを導入する」「換気機能付きエアコンを導入する」「空気清浄機を利用する」といった方法があります。いずれも、全体換気を行う換気装置を補う役割を果たすため、有効な方法となります。
これまで、店舗の売場スペースを前提に換気方法をお伝えしました。次に、売り場スペース以外の場所の換気についてお伝えします。
店舗・クリニックのトイレの換気は、トイレ天井のファン(排気ファン)で行われています。トイレ天井のファンは一般的に、狭い空間を強力に排気できるだけの高い性能があるため、「トイレで用を足した後の臭気」について心配しすぎる必要はありません。
窓開けの換気が必要になるのは、ニオイよりも湿気です。トイレは、便器には常時水が張られていることもあり、湿度が上がりやすいためです。湿気がたまるとカビが発生し、ファンでは解消できないニオイ発生源となってしまいます。
トイレの窓を開けられる場合は、窓開け換気を行い湿度を下げましょう。もし、天候やお客様プライバシーの関係で、窓開け換気ができない場合は除湿機や除湿剤を使うのも良いでしょう。
店舗スタッフのロッカーや休憩スペースがあるバックヤードは、無人となることも多いため、防犯上窓開けできないケースが多いのではないでしょうか。換気が十分でない場合、湿気によるカビ発生や、スタッフの汗や体臭といったニオイが発生します。
店舗の全体換気を用いて、バックヤードの換気が十分に行えない場合は、換気扇(排気ファン)を取り付けるのが効果的です。それでも湿度に問題がある場合は、除湿機・除湿剤などを併用するのもよいでしょう。
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