この記事に書いてあること
参考資料:図説テキスト 建築環境工学 (第二版)
私たちが日々行っている「換気」ですが、「換気」とは何でしょうか。換気を辞書で引くと、以下のように記載されています。
建物などの内部の汚れた空気を排出して、外の新鮮な空気と入れかえること。
窓を開けたり、換気扇をつけるなどして、建物の中の空気を外に出し、外の空気を中に入れることで、建物の中を汚れていない空気にすること。これが換気です。では、なぜ家の中の空気は汚れてしまい、換気しなくてはならなくなるのでしょうか。
換気が必要な理由として、以下の6点があげられます。
二酸化炭素は「地球温暖化」のイメージが強いですが、二酸化炭素濃度が高まると「身体の安全」と「思考力」に影響します。
一般的な環境では、身体の安全が脅かされるほど二酸化炭素濃度が上昇することはありません。しかし、かなり低い濃度でも思考力に影響を及ぼすことがアメリカの研究機関により確認されているため、濃度を低く保つことは重要です。
出典: アメリカ ローレンス・バークレー国立研究所
さて、二酸化炭素濃度は、主に2つの原因で上昇します。
人は呼吸することで、肺で酸素を取り込んで、不要になった二酸化炭素を吐き出しています。このため、人が「吸う息」と「吐く息」では、成分割合が異なります。
出典: 東京工科大学工学部応用化学科
吸う息に比べて吐く息は「酸素が4.50%少なく、二酸化炭素は3.81%多い」のです。このため、人がいる室内では徐々に二酸化炭素濃度が高まっていきます。
二酸化炭素はストーブなどの暖房(燃焼)器具、ガス器具、タバコからも発生します。
ここで、筆者の経験を紹介します。真冬に窓を閉め切った環境で、夫婦二人がオイルヒーターをつけて寝た際、就寝前に0.04% (400ppm) 程度だった二酸化炭素濃度が、朝起きときには4倍の0.16% (1600ppm) を超えていました。これは、「建築物環境衛生管理基準」と「学校環境衛生基準」で定められている濃度を上回る数値です。
このように、密閉された状況で二酸化炭素を発生する器具などを利用することで、呼吸よりも早く濃度が上がります。
一酸化炭素は、二酸化炭素と似た名前ですが、危険性がはるかに高い物質です。ごくわずかな量が体内に入るだけでも死に直結します。
少量が充分な酸素がない環境で火気を使用したときの “不完全燃焼” により、一酸化炭素は生成されます。 窓を閉め切った状態で七輪 (炭火) を使ったり、屋外であってもテント内で煮炊きをしたりといった事が原因の一酸化炭素酸中毒事故は毎年一定数発生しています。
消防法で各家庭に設置が義務付けられている火災報知器には一酸化炭素検知機能が付いている物も多いので、自宅の火災報知器を一度確認すると良いでしょう。
また、タバコの吸気中や車の排気ガス内にも一酸化炭素が含まれており、喫煙常習者や交通量の多い場所で働く労働者は、そうでない人と比べて体内に蓄積されている一酸化炭素の割合は数倍多いという報告があります。
二酸化窒素を中心とした各種の窒素の酸化物は、ひとまとめに「窒素酸化物」と呼ばれています。低い濃度でも、人体に悪影響を及ぼす物質です。自動車の排気ガスに多く含まれており、大気汚染を引き起こす原因となるため、官民あげて削減への取り組みが進んでいます。
窒素酸化物は、物質が燃焼するときに発生します。このため、屋内ではストーブやガス器具などがその発生源となっています。閉め切った部屋で、屋外排気のないストーブを長時間利用するような場合は濃度が上がりやすく、特に換気を心がける必要があります。
窒素酸化物の大半は二酸化窒素ですが、この二酸化窒素は強い酸化作用により、呼吸器系 (喉、気管、肺など) に悪影響を与えます。
VOC (揮発性有機化合物) とは、私たちの生活で広く使われている化学物質です。VOCを吸引すると、倦怠感、めまい、頭痛、のどの痛みといった「シックハウス症候群」を引き起こします。
代表的なVOCである「ホルムアルデヒド」は、合成樹脂、建材、消毒剤・防腐剤、医薬品、また衣類にも縮み防止やしわ防止、形態安定のために利用されています。特に注意すべきVOC利用は、建材です。建材にVOCが用いられている場合、建材に含まれるVOCが原因で、「倦怠感、めまい、頭痛、のどの痛み」などのシックハウス症候群を発症する場合があります。
室内のVOC濃度を低下させるために換気が有効です。研究論文によると、住宅内のホルムアルデヒド対策として換気を行った場合に、部屋を閉め切った状態に比べ最大6割濃度が低下するという結果が発表されています。
出典: 住宅内ホルムアルデヒド濃度 宮崎竹二 (大阪市立環境科学研究所)
ほこり、食べ物のくず、衣類繊維くず、ダニやその死骸、土の粉塵、ペットの毛などの中で、微細なために空気中に舞い上がるものは、総称してハウスダストと呼ばれ、アレルギーの原因物質(アレルゲン)となっています。これらアレルゲンは、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみや痛み、頭痛、喘息といった症状を引き起こします。
アレルゲンの対策としては、屋内の掃除機掛けやモップ掛けがありますが、換気も有効な対策です。屋内の空気と比べて、屋外の空気のほうがアレルゲンが少ないためです。よって定期的な換気により、アレルゲンを外に出すことができます。
1点例外があります。それは花粉症の原因である「花粉」です。花粉が多く飛び交っている時期に換気を行うと、家の外の花粉が屋内に入ってきてしまい、「換気によりアレルゲンが増える」という状況になるため、「ドアや窓際をよく掃除する」など換気以外の対策が必要です。
2020年の新型コロナウイルス流行により、電車やバスといった公共交通機関、飲食店などの店舗が一斉に換気を始めたことは記憶に新しい出来事です。人体に害がある細菌やウイルスは、人によって持ち込まれることが多いため、人が屋内で飲食や会話をした後は、屋内に細菌やウイルスが残っている場合があります。
細菌やウイルスは非常に小さいため、人の出入りや動きなどで簡単に舞い上がります。例えば、インフルエンザに感染した人が会話した場合、口から出た唾液にもウイルスが含まれており、この唾液が乾燥するとウイルスが舞い上がります。そして、別な人の体内に入り、インフルエンザの症状を発生させてしまう場合があるのです。
屋内から細菌・ウイルスを追い出すためには換気が特に有効です。空気清浄機も有効な方法の一つですが、空気清浄機のフィルターで細菌・ウイルスを取り除く量と、窓開けの換気量を比較すると、窓開け換気のほうが換気量(取り込める空気の量)が多いため、通常の換気が推奨されています。
出典: 日本医師会 新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して
有害な物質を含む空気を、新しい空気に交換する「換気」ですが、具体的にはどのような方法があるのでしょうか。以下で見ていきましょう。
「換気」という言葉を聞いて、多くの方が想像されるのはこの「窓開け換気」ではないでしょうか。窓を開けると、外から屋内に風が入ってきて、屋内の有害物質を排出できます。手軽で、費用がかからない方法です。
2003年7月以降に建てられた住宅やマンションは、屋内の空気を外に出すための「排気口」のみ、または屋外の空気を屋内に取り入れるための「給気口」と排気口の両方が設置されています。
排気口は主に天井など設置されたファン、そして給気口は屋内の壁に取り付けられている「丸や四角の穴」です。
排気口や給気口があると、24時間自動的に換気を行ってくれるため、手動で窓開けを行わなくても換気がされる、便利な方法です。
一般的な住宅では、屋内の複数箇所に換気扇(ファン)がついています。換気扇は、ガスを放出するコンロ、またニオイが発生するトイレ、湿気がこもりがちな浴室など、特に換気が必要な場所に設置されています。
換気扇を回すことで、屋内の空気とともに有害物質や臭気、湿気を外に出せるため、安全かつ快適な生活を送るうえでは欠かせない換気方法です。
通常のエアコンは、「部屋の空気を吸い込み、冷やして(または温めて)、再び排出する」という動作を繰り返し行っています。言い換えると、室内の同じ空気を繰り返し冷やす(温める)だけで、外からの空気の取り込みや、屋内の空気の排気は行っていません。
最近では、主に高価格帯のエアコンの一部に、換気機能が搭載されています。屋外の空気を取り込み、屋内の空気を排出しながら、冷暖房も行えるタイプのエアコンです。やや高額ではありますが、換気が行いにくい天候、または特に換気が必要な場所を自動で換気したい場合に有効な方法です。
店舗やオフィスなどでは、建築基準法により定められた換気設備を設置する必要があります。これは、外の空気を屋内に取り入れる「吸気」と、屋内の空気を外に排出する「排気」の両方が、機械を用いて常時行われているということです。
建築基準法に従って設置された換気設備を稼働させ、定期的にメンテナンスを行っていれば、別な方法で新たに換気を行う必要は基本的にありません。
小規模・低層の窓が開けられる建物・ビルであれば、窓開けは最も手軽な方法です。ただ、窓を開けることで風が入り室温が変化すること、外の騒音が室内に入ってくること、風で書類などが舞い上がること、そして家族だけでなくて社員や顧客などがいることから、換気のために頻繁に窓開けすることは多くないでしょう。
また、換気設備が稼働しているオフィスなどであっても、会議室やセミナー室に多くの人が詰めかけて、一時的に二酸化炭素濃度が上がる場合があります。こうした場合は、換気設備があるオフィスであっても、窓開けを行うことは効果的です。
小規模な飲食店の厨房やオフィスの給湯室などには換気扇が、また大規模な飲食店や重飲食の店舗となると、大掛かりな排気設備が取り付けられています。有害物質や臭気を屋外に出し、従業員の安全を守っています。
次に、「1日に何回換気すればよいか」という換気の回数、ならび「何分換気すればよいか」という換気の時間について見ていきましょう。
結論から説明します。
「建物の24時間換気(2003年7月以降の建物)」が正しく使用されている場合、意識的に窓開け換気を行わなくても、一定量の換気が自動で行われています。とはいえ、窓開けなどを追加で行うことは、有害物質を外に出すためにもちろん効果的です。一般的には「1時間に5~10分程度の窓開け換気」で十分です。
なお、以下のような場合は、健康被害や思考力の低下を防ぐためにも必ず窓開け換気が必要です。
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