この記事に書いてあること
私達が毎日吸い込んでいる空気の成分は、「窒素」と「酸素」で約98%が占められます*1。そして、残りの2%に「アルゴン」「ネオン」「ヘリウム」「キセノン」、そして「二酸化炭素」といった物質が含まれます。
*1 北海道立総合研究機構「大気の主な成分」
https://www.hro.or.jp/list/environmental/research/ies/katsudo/taiki/syuseibun.html
二酸化炭素濃度とは、「空気に含まれる二酸化炭素の割合」を表した数値です。一般的にppm (100万分計)、または% (百分計) を用いて表します。
なお、気象庁が発表した2019年の大気中の二酸化炭素濃度は 410.5ppm (0.04105%) となります*2。空気に占める二酸化炭素の割合は、わずか0.04%程度となります。
*2 気象庁「二酸化炭素濃度の経年変化」
https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html
二酸化炭素濃度は、家庭やオフィス、学校といった一般的な環境であれば、身体に違和感を感じる水準である10000ppm (1%) を超すことはまずありません。しかし、濃度が若干上がる程度でも「集中力」や「眠気」に影響が生じるため、注意が必要です。
また、二酸化炭素濃度は「人の密度が高まると上昇する」という性質があります。このため、新型コロナウイルス流行下では、「人の密集を防ぐための指標」としても用いられています。
二酸化炭素濃度が上昇する理由は、「人間の呼吸」です。人は、「二酸化炭素濃度が約0.04%の空気」を吸い込みますが、肺で酸素と二酸化炭素が交換されることにより、「二酸化炭素濃度が3.84%の空気」を吐き出します*3。
*3 東京工科大学工学部応用化学科Blog 江頭靖幸教授
http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2017/02/post-9669.html
つまり、人が「吐く息」は、「吸う息」の100倍近い二酸化炭素濃度があるのです。つまり、「人が息を吸って、吐く」を繰り返しているだけで、室内の二酸化炭素濃度は上昇するのです。
これに、以下の条件が加わると濃度上昇が加速します。
大気の二酸化炭素濃度は410ppm (0.041%) 程度ですが、二酸化炭素濃度が上がった室内では数千ppmとなる場合もあります。
二酸化炭素濃度の上昇に気をつけるべき理由は、大きく分けて3つです。
一般的な環境であれば、二酸化炭素濃度が高まっても「呼吸困難」や「死亡」といった事故は発生しません。しかし、濃度の上昇により、呼吸回数の増加や、軽い息苦しさを感じる場合があります。致命的な影響が場合であっても、二酸化炭素濃度を低く保つほうが、より快適で健康に生活できます。
国内外の研究により、二酸化炭素濃度が上昇すると仕事や学習における集中力が損なわれることが明らかになっています。締め切った部屋で、換気をせずに勉強を続けたり、大勢で会議やディスカッションを行ったりする場合、気づかないうちに集中力が損なわれ、作業効率や議論の効率が低下してしまうのです。
集中力と同様、国内外の研究により、「二酸化炭素濃度が上昇すると、眠気が増す」ことが明らかになっています。二酸化炭素濃度が高い環境で、勉強をしたり仕事をしたりした場合、徐々に眠くなってしまい、効率が低下してしまうため、注意が必要です。
二酸化炭素濃度が高まった空気を下げるには、「室内の空気を外に出す」「外の空気を室内に入れる」のいずれか、または両方を行う必要があります。以下では、一般的な方法について説明します。
外気を室内に入れる(給気) | 室内の空気を外に出す(排気) | |
---|---|---|
窓開け | ◯ | ◯ |
24時間換気 (第1種機械換気) | ◯ | ◯ |
24時間換気 (第3種機械換気) | ◯ | ✕ |
換気扇・排気ファン | ✕ | ✕ |
換気機能付きエアコン | ◯ | ✕ |
理想的には「給気」と「排気」の両方行えることが望ましいですが、両方が行えない環境ではいずれかのみを行って頂くだけでも二酸化炭素濃度を低下させられます。
二酸化炭素濃度は健康に影響を与えるため、「この濃度を上回らないよう努力しましょう」という基準が設けられています。
住宅やオフィスビル、商業施設などの基準は「建築物環境衛生管理基準」により定められています。この基準では、二酸化炭素濃度は「1000ppm以下」と定められていますが、この基準はあくまで努力目標として設けられています。1000pppmを超えた場合でも、罰金などのペナルティはありません。
理由は、「人が集まった結果、一時的に1000ppmを超えてしまうことは珍しくない」ためです。「絶対に1000ppmを超えてはいけない」とすると、過剰な換気設備を設ける必要が生じ、実情に合わないため、努力目標的な扱いとなっていると考えられます。
学校や保育施設は、住宅や商業施設などとは別な基準が設けられています。学校環境衛生基準では、二酸化炭素濃度は「1500ppm以下」となるように定められていますが、建設物環境衛生管理基準と同様、努力目標としての数値となります。
理由も同様で、「人口密度の高い教室などの室内で、一瞬たりとも1500ppmを超えない」のは無理があるためと考えられます。例えば、寒い地域にある学校の冬の教室は、暖房を教室から逃さないようにするため、窓やドアを閉め切って授業を行います。
一般的な教室の授業中の時間は「40人の生徒と1人の先生」がいる教室は人が密な状態であり、このため二酸化炭素濃度が1500ppmを一時的に超えてしまうことは頻繁にあると考えられます(夏の冷房中の教室も同様です)。
「建築物環境衛生管理基準」や「学校環境衛生基準」はいずれも、屋内における二酸化炭素濃度基準であり、屋外における二酸化炭素濃度基準はありません。その理由は、屋外で二酸化炭素濃度が上がったとしても、すぐに二酸化炭素が拡散し、濃度が低下するためです。
なお、屋外における二酸化炭素濃度という観点では、産業化以降の化石燃料の利用増加や人口増加による二酸化炭素濃度上昇が指摘されています。産業革命以前の二酸化炭素濃度は280ppm程度ですが*4、1985年には340ppmを突破、そして2019年には410ppmへと急速に上昇しています。
*4 大気 CO2の海洋吸収と生態系への影響
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/co2/knowledge/CO2sympo/abstract/Symp-2Sabine.pdf
二酸化炭素は温室効果ガスと呼ばれ、日光の赤外線を吸収し、熱が地球外に出ていくことを防いでいます。この効果により、地球は温暖な気候を実現しているため、温室効果は本来望ましいものです。しかし、温室効果ガスが多すぎると想定以上の熱を地球に留めてしまうため、地球表面の気温が上昇し、気候変動を招きます。このため、二酸化炭素の排出減少が期待されています。
注意:以下の内容は新型コロナウイルス流行下で、なぜ二酸化炭素濃度が注目されるに至ったかを解説するもので、医療・医学に関する専門的な情報を紹介するものではありません。
現在、「二酸化炭素濃度を知ることが新型コロナ対策(まん延防止)となる」という認識が広がっています。これは、「人が密集している状態を回避すれば、新型コロナウイルスのまん延を防止できる」という特性からきています。
人が多く集まると二酸化炭素濃度が上昇します。つまり「人が密集している」ことを数値で示すことができます。よって、二酸化炭素濃度計に表示された数値を目安に、「人が少ないからもう少し入っても大丈夫」「人が多いから換気が必要」というように、具体的な対策を取ることができます。
なお、二酸化炭素濃度ならび濃度計についての利用を促したのは政府です。
2020年11月、西村康稔経済再生担当大臣は、会見につづき以下の文章を公表しています。
特に、密閉した空間での活動が増える冬に向けては、室内でCO2濃度センサーを活用して換気効率をチェックしたり、適度な加湿を行ったりするくことが効果的です。
西村大臣からのお知らせ(令和2年11月13日)Vol.75
https://corona.go.jp/minister/20201113_01.html
その後、2021年4月には「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長 」名で、以下の内容が各都道府県知事に通達されています(一部抜粋)。
・換気状況を確認する方法として、「二酸化炭素濃度測定器を使用し、室内の二酸化炭素濃度が1000ppmを超えていないかを確認することも有効であること」とされているところである。
・建築物の管理権原者は……二酸化炭素濃度測定器等を設置すること等により、当該建築物が同基準を満たすよう、適切に確認することが求められる。
・「緊急事態宣言解除後地域における当面の間の飲食業の在り方」において、「二酸化炭素濃度測定器を用いて店内を測定し、二酸化炭素濃度が一定水準(目安1,000ppm)を超えないように換気や収容人数を調整する。
・二酸化炭素濃度が一定水準を超えた場合に自動的に換気が行われる技術を導入する方法もありうる。」とされていることにも留意すること。
・アクリル板等の購入・施工、二酸化炭素濃度測定器の導入等については、小規模事業者持続化補助金の対象となりうることに留意すること。
・不特定多数の人が利用する施設等を対象に……換気能力が高く、同時に建築物の省CO2化促進にも資する高機能換気設備などの高効率機器等の導入が支援されていることに留意すること。感染対策の適切な実施について
https://corona.go.jp/news/pdf/taisaku_jisshi_20210401.pdf
これらを要約すると以下の通りです。
まん延防止として必要なことは、まずは二酸化炭素濃度を知ること、そして換気すること。この2点です。
信頼できる二酸化炭素濃度計を導入し、「現在の二酸化炭素濃度はどの程度か」を知ることがスタート地点です。二酸化炭素濃度が外気と同レベル(400ppm程度)であれば換気不要、逆に1000ppmに近づいている(または超過している)場合は、換気が必要です。
次に換気ですが、既にご紹介した以下の方法で実施します。こちらは本記事の前項「二酸化炭素濃度をどのように下げるか」でご紹介したものです。
外気を室内に入れる(給気) | 室内の空気を外に出す(排気) | |
---|---|---|
窓開け | ◯ | ◯ |
24時間換気 (第1種機械換気) | ◯ | ◯ |
24時間換気 (第3種機械換気) | ◯ | ✕ |
換気扇・排気ファン | ✕ | ◯ |
換気機能付きエアコン | ◯ | ✕ |
新型コロナウイルス対策として、「室内除菌」を謳う製品が多数販売されていますが、世界保健機関(WHO)では、薬剤などの空間噴霧は推奨していません*5。換気が最も有効な対策となりますので、二酸化炭素濃度を目安に十分な換気を実施いただければと存じます。
*5 Cleaning and disinfection of environmental surfaces in the context of COVID-19
https://www.who.int/publications/i/item/cleaning-and-disinfection-of-environmental-surfaces-inthe-context-of-covid-19
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